単一高分子鎖のコンホメーション

高分子化合物は鎖状の巨大分であるために大きな分子内自由度を有するため、様々なコンホメーションをとり、またその分子運動はピコ・ナノ秒から分・時間のオーダーまで幅広い時間領域にわたっている。このような“高分子鎖一本”をそのまま観察することができれば、高分子材料の基礎物性を明らかにするための直接的な知見を得ることができるものと考えられる。当研究グループでは、一本一本の高分子鎖を直接観察することで鎖の形態や運動の様子を実験的に評価し、高分子材料のマクロな物性を支配する分子プロセスを明らかにする研究を行っている。

現実のバルク材料中では多数の高分子鎖が複雑にからみ合っており、その中から一本だけを見分けなくてはならない。そのような方法として最も有効なのは蛍光ラベル法である。高分子鎖に蛍光色素を導入し、その発光をイメージングすることで単一の高分子鎖をバルクの中から観察することができる。しかし従来の光学顕微鏡法では空間分解能が回折限界によって制限されているため、たかだか100 nm程度の拡がりしか示さない高分子鎖を直接観察することは不可能であった。しかし最近になって近接場光学顕微鏡超解像顕微鏡などの回折限界を超えた新たな蛍光イメージング法の開発によって、初めて高分子鎖一本一本のコンホメーションを実空間で直接的に評価することが可能になった。我々はこのような手法を高分子の構造解析に導入し、最近では高分子鎖一本の三次元構造の観察にも成功している。このような単一高分子鎖の直接観察を通して、バルク物性を支配する分子レベルの描像を実験的に明らかにすべく研究を行っている。

超薄膜中の高分子鎖のコンホメーション

高分子材料は薄膜として利用されることも多い。高分子鎖は一本で10〜100 nm程度の拡がりを示すため、これより薄い膜厚になると高分子鎖はその非摂動状態でのサイズよりも小さな空間に閉じ込められた状態におかれているものと考えられる。このような超薄膜状態では高分子鎖の自由度は大きく制限されており、特異な構造・物性を示すものと考えられる。このような高さ方向に強く拘束を受けた鎖の形態を直接観察することで単一分子レベルで研究を行っている。下図はポリメチルメタクリレート(PMMA)鎖のSNOM画像である。高分子鎖は超薄膜中で高さ方向の制限を受けても、膜面内方向の拡がりを変えることなく収縮した形態をとり、隣接した鎖とのからみ合いが減少することを示した。

ミクロ相分離構造内のブロックコポリマー鎖の形態

非相溶の高分子が連結されたブロック共重合体は、その鎖長に依存した規則的なミクロ相分離構造を形成することが知られている。このようなミクロ相分離構造内におけるブロック鎖や、ここに混合したホモポリマー鎖の形態について研究を行っている。