近接場光学顕微鏡

近接場光学顕微鏡(SNOM)の原理

通常の光学顕微鏡の空間分解能は、光の波長の1/2程度までに制限されている(回折限界)。つまり従来の顕微鏡では300 nm以下の分解能は得られないことになる。この回折限界を超えるべく開発されたのが走査型近接場光学顕微鏡(SNOM、しばしばNSOMとも呼ばれる)である。光が波長以下の構造に照射されると、その微細構造近傍のナノメートルスケールの空間に束縛された光電場を生じる(近接場光)。このような近接場光を利用することで、ナノメートルの分解能で光学的な情報を取得する顕微鏡がSNOMである。 SNOMには様々な形態が存在する。試料全体の広い領域に光を照射し、鋭い金属探針を接近させることで試料上に発生した近接場を伝搬光に変換して(散乱させて)その強度を検出したり、探針自体に波長以下の微小なピンホールを設け、そこから発生した近接場光で試料を照明するもの等がある。後者は開口型SNOMと呼ばれ、試料照明を近接場光のみで行うためにコントラストの高い信号を得ることができる等の利点があり、特に蛍光検出などに適している。SNOMでは探針を接近させた1点からの信号しか得ることができないため、探針の位置を逐次を変えながら信号強度を記録することで顕微鏡画像を構成する。その空間分解能は探針近傍に発生した近接場光のサイズで決まり、数10〜100 nmの分解能を達成することができる。

回折限界を超える空間分解能

SNOMでは分子一個からの蛍光をも高感度かつ高分解能に検出することが可能である。右図はローダミン6Gの単一分子から得られた蛍光像である(スケールバーは100nm)。左側の画像で観測されている分子の大きさから約20 nmの空間分解能で単一の分子を観察可能であることが分かる。また、右側は1個の分子からの蛍光であるが、2つの蛍光ピークが観測されている。これは開口 近傍の電場分布を反映したものであり、基板垂直方向の遷移モーメントを持つ分子がこのように観察される。この分子は、プローブのスキャン中矢印のラインか ら蛍光強度が0まで減少している。これは強い励起によって蛍光分子が褪色した結果であるが、この褪色反応がdiscreteに起こっていることから、この蛍光が多数の蛍光色素分子からのものではなく、単一の分子から観測されたものであることが分かる。 このように高分解能・高感度のSNOMを用いることで、物質の最小構成単位である分子に直接アクセスすることができるようになる。我々の研究室ではこのような手法を開発するとともに、高分子材料の物性評価に応用することで高分子鎖一本一本のすがたを直接観察し、高分子物理の研究を展開している。

新しい近接場分光法

単に信号強度のマッピングによる画像観察だけではなく、近接場での分光計測や偏光計測を可能とすることで画像だけでは得られない様々な情報を取得する手法の開発を行っている。従来まで近接場光学顕微鏡において使用されることのなかった深紫外光の利用を可能にし、ポリスチレンやポリカーボネートなど、これまで高解像度での直接観察が困難であった高分子材料のイメージングに成功している。